
「物忘れが多くなったが認知症ではないか」と心配して外来を受診する方が多くなっています。認知症の方には物忘れは必ず見られますが、物忘れのある方が認知症になると言う訳でもありません。その答えを含めて、今から認知症の話を詳しく説明しますので、勉強したい方は是非お読み下さい。
そのだ脳神経外科医院は認知症の早期発見と治療に努めています。物忘れが気になる方は一度当院の「物忘れ外来」を受診して下さい。
いいえ、単純にそうとも言えません。認知症は必ず物忘れで始まりますが、物忘れが認知症につながるとは言えないのです。物忘れは脳の、特に海馬と言う側頭葉の一部の神経細胞の減少や機能の低下によっておこります。この海馬は虚血と言う血液不足に弱いので年齢的な脳血液の減少ですぐに働きが鈍ります。ですから誰も年をとると物忘れが進むのです。物忘れだけならメモを取る事で支障はありません。一方認知症はいろんな情報を統合整理し判断する働きを持つ前頭前野の障害で起こります。この前頭前野は人間で特に発達しています。認知症は人間特有の病気と言う人もいます。前頭前野の発達していない犬や猫には認知症はないのです。
さて、普通の物忘れと認知症の物忘れの違いを説明しましょう。普通の物忘れは記憶の一部を忘れます。それに対して認知症の物忘れは記憶のすべてを忘れてしまうのです。例えば、ある人に会ってその人の名前を思い出さない事はよくある事でこれは普通の物忘れですが、ある人に会った事も忘れている場合は認知症の物忘れなのです。認知症では自分が物忘れをすると言う事も忘れてしまい、自分はどうもないと思ってしまうのです。言い方を変えますと、物忘れが多くて認知症ではないかと心配している方は認知症ではないという事です。

はい、日本人の高齢化が進むのに比例して急速に増えています。2005年は約189万人、15年後の2020年には約292万人に達すると予測されています。
年齢と共に認知症の割合が多くなり、現在85歳以上のお年寄りの4人に1人が認知症といわれています。
この様に認知症は急増しており、身近な問題になっているのです。
認知症は痴呆症のことです。2004年12月から厚生労働省の指導で名称が変わりました。当初は聞き慣れない病名で違和感がありましたが、最近やっと慣れた感じです。
さて、認知症とは「後天的な脳の障害によって、正常に発達した知能が持続的に低下し不可逆的になった状態」と定義されています。
「不可逆になった状態」と言うのは「元に戻らなくなった状態」ですから、治らない状態を意味します。認知症は治らないものと習って来たのですが、最近「治る認知症」と言う言葉をよく耳にします。治るのは認知症ではないと言う定義も少しずつ変化してきて、今では治る場合も認知症に含める方が多いようです。
いいえ、認知症にもいろんな病気があります。簡単に分けますと、
アルツハイマー病と言う病名は結構有名ですね。これは比較的若い人に起こる認知症で特別の疾患と考えられていましたが、最近では老年認知症と同じで発症が早いだけと考えられるようになり、アルツハイマー型認知症、あるいはアルツハイマー病と言われます。この認知症は原因が分かっていません。何かの原因で神経細胞が壊れていくのです。次に脳血管性認知症の大半は多発性脳梗塞で起こりますが、動脈硬化などで脳血流の極端に悪い場合にも起こります。原因は脳梗塞の危険因子を持つ事です。
③の治る認知症は「認知症に見えるほかの病気」とも言えます。慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症、脳腫瘍、甲状腺機能低下症、安定座愛や睡眠導入剤などの薬の効きすぎなどが含まれます。それぞれに原因があり、その原因を治すことで認知症が治るのです。最近テレビで正常圧水頭症が話題になりました。日本では以前は脳血管性認知症が多かったのですが、最近はアルツハイマー型認知症が多くなっています。

認知症の症状は①中心となる症状と、それに伴って起こる②周辺の症状に分けられます。
①中心症状とは「記憶障害(物忘れ)」「見当識障害」や「判断力の低下」などで、必ずみられる症状です。見当識障害は時間がわからなくなる、場所が分からなくなる、ひとの区別が分からなくなることです。②周辺症状は人によって差があり、幻覚、妄想、睡眠障害(昼夜逆転)、徘徊などがあります。怒りっぽくなったり、不安になったり、異常な行動がみられたりすることもあります。妄想で多いのは被害妄想で、特に物盗られ妄想が多いです。自分で財布を直し込んでおきながら、財布を盗られたと思い、他人が盗ったと疑います。幻覚も多く、すでに亡くなった人が目の前に現れて話すのですから、それを口にすると他の人と話が合わなくなります。場所や日時が分からなくなりますので、家の外に出たら家に戻れなくなりあちこち歩き回ることがあります(徘徊)。
認知症は患者さんの状況をよく知っている方と一緒に診察に来て頂いてお話を聞くことでだいたい分かります。そして「物忘れのテスト」をします。簡単なテストです。これで認知症の診断がつきます。
あとはその原因を調べます。脳梗塞や慢性硬膜下血腫などがないか、CTスキャンを撮ります。甲状腺機能低下などがないか血液検査もします。脳梗塞の場合はその原因に糖尿病や高脂血症がないかも調べます。
よくCTスキャンやMRIを撮った時に「呆けてませんか」と聞かれる事がありますが、CTやMRIは脳の形を見る検査ですから、認知症は判りません。認知症では脳萎縮が見られますが、脳萎縮がある人が認知症とは言えないのです。
時には自分はどうもないのに家族から受診を勧められて来たと言う患者さんがいます。自分はどうもないのだと言われるので診察に非常に困ります。しかし、こういう方が認知症の典型例なのです。認知症の診断には患者の普段の状況をよく知った方の情報が重要なのです。
脳血管性認知症や原因がある認知症はそれぞれの治療をすると治る事もあります。しかし一番多いアルツハイマー型認知症は進んでしまうと治りません。まだ軽いうちには薬で改善が見られる事もありますし、その後の脳のリハビリで改善が見られる事もあります。以前から碁をする人は呆けないと言われていました。それは頭を使う事で脳のリハビリを行っていたからです。最近新聞の音読や計算が良いと言われいろんな問題が書店に売ってあります。これらを取り入れているデイサービスなどもあります。近い将来にはアルツハイマー型認知症の進行を止める薬も開発される様です。ただ現時点では早期に発見し、早期に治療を開始する事が望ましいのです。物忘れを指摘された方は是非専門の病院を受診して下さい。物忘れのテストを受けたい方は当院でやっておりますので是非おいで下さい。
認知症に使われる薬は,現在、認知症に効果が認められているのは「アセチルコリンエステラーゼ阻害薬」だけです。欧米では「タクリン」(コグネックス)「リバスティグミン」(エクセロンパッチ)「ガランタミン」(レミニール)「塩酸ドネペジル」(アリセプト)という4種類のコリンエステラーゼ阻害薬が使われています。
日本では、「塩酸ドネペジル」が軽度から中度のアルツハイマー型認知症の薬として許可され、広く使われています。しかし、この薬は認知症を根本的に治す薬ではありません。
そのほかには、症状をコントロールするという目的で抗不安薬、精神安定薬、抗うつ薬、脳循環代謝改善薬、睡眠(導入)薬などが用いられます。
そのほかに、アミノ酸の一種であるグルタミン酸が結合する受容体(NMDA)と呼ばれるタンパク質に作用する薬「メマンチン」(メマリー)もあります。グルタミン酸は神経伝達物質の1つで、NMDAに結合すると神経細胞を興奮させて死滅させる働きがあります。開発中の薬はグルタミン酸が結合しないようNMDAにフタをします。その結果、神経細胞が死滅するのを抑えることが出来るのではないかと期待されています。
また、患者の脳に蓄積する老人斑の主成分であるβ-アミロイドタンパク質を取り除く働きがあるタンパク質も開発され、米国で試験が進んでいます。老人は体力が落ちているため、若い人よりも副作用がでやすい傾向にあります、介護者には薬の管理や副作用への注意が必要です。
この3月中旬にメマリーが新発売の予定でしたが、大震災の影響で延期となり、レミニールのみ発売されました。メマリーも6月には発売されるとの情報です。これまではアリセプトと言う薬だけしか国内では使うことが出来ませんでした。それでアリセプトの効果がない場合これまでは治療に行き詰っていましたが、これからは他の薬も使えます。併用する事も可能です。私の治療の幅が広がりました。私はとても期待しています。